赤羽(Akabane)
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何かと世間を騒がせる「卵は一日何個まで?」論争の着地点
昔から卵については色々な議論があって、例えば一昔前は卵は高コレステロールで心疾患リスクを高める!(#1)という風潮が強くて卵は悪者でした。
ただこの風潮も近年では覆されて、今ではコレステロールは悪者じゃないし、実際に卵で心疾患リスクは高まらないよ(#2)というのが定説になりつつあったり。
ただし一方で糖尿病リスクに対してはハッキリしておらず、
みたいに色々な結果が出ていたりします。食事の長所短所は色々な病気リスクをトータルして考えないとなんで、なかなか大変であります。
→卵は心疾患リスクを高めないけど糖尿病だとどうか分からない
→New! 卵はやっぱり心疾患リスクを高める!
最新研究結果:一週間に卵3〜4個以上で総死亡リスクと心疾患リスクが高まるぞ!はどこまで信じていいのか?
ではここからが今回の本題。ここ最近でまた卵論争を加熱させる研究が出ておりまして、これは2019年に権威ある医学雑誌『JAMA』に掲載されたメタ分析(#4)。ザッと中身を覗いてみると、
- アメリカで行われた6件の観察研究から29615名の成人を対象に
- 食事からのコレステロールと心疾患や脳卒中、総死亡リスクの関係を調査した
- 追跡期間の中央値は17.5年間と長期にわたっている(最大31.3年間)
といった感じでかなり大規模な研究になっております。更にこの研究の強みは、不健康な食事やアルコール、タバコ、運動習慣やBMIといった他の要素をしっかり調整している点。要はこれらの影響を排除できるんで、その分コレステロールの影響に絞って調べられるんですね。
結果として、この追跡期間の間で心疾患の発症が5400件、計6132名が亡くなりました。これにどれだけコレステロールが関係していたか?詳しく結果をみてみると、
- 一日の食事のコレステロール摂取量が300mg増えるごとに心疾患発症リスクが3.24%、総死亡リスクが4.43%高まった
- 一日の卵の消費量が半個分増えるごとに、心疾患発症が1.11%、総死亡リスクが1.93%高まった
- 卵の消費量と心疾患発症、総死亡リスクの相関はコレステロール量を調整したところ見事に消えた
こんな感じに。どうやら週に3〜4個以上卵を食べると心疾患や早死にのリスクが高まる!ということみたい。この前まで卵は心疾患リスクを高めないって言ってたのに、どっちやねん!と言いたくなりますね。
では結局どっちが正しいのか?これは過去の信頼性の高い研究と比較してみる他ないんですが、その前に今回の研究の問題点を挙げてみます。
- 参加者の食事内容を1回しか調べてない
- 食事内容の確認は参加者のセルフレポートがメイン
- 6件中4件で食事内容の確認方法が違う
正直観察研究だとセルフレポートなのは仕方ないとして、問題なのは食事の内容を1回しか調べてない点。追跡開始時点に答えた食事内容が、その後最長で約30年間ずっと変わらないとは考えづらいですからね。
こうした指摘は他の研究者の方々からも挙がってまして(#5)、詳しくはリンク先をご覧ください。
まとめ :そもそも「卵は何個まで?」という考え方が変
ということで以上を踏まえて本題に戻るのですが、そもそも「卵は一日何個まで?」みたいな考え方自体がちょっと変では?と思ってしまいます。理由は簡単で、
- 相当食べ過ぎない限り卵を1、2個増減させただけでは疾患リスクに影響はなさそうだから
- それよりも卵の調理法やその他の食生活をトータルで考慮すべきだから
この辺りは常々考えております。実際に冒頭で紹介したRCT(#3)でも、
- 卵はゆで卵やポーチドエッグで食べ、定期的な運動を心がけ、他の部分でも健康な食事を心がければ、二型糖尿病患者でも一日2個卵を食べようが心疾患、糖尿病関連の数値は変わらなかった
という結果が得られていたり。例えばゆで卵でなくベーコンハムエッグだったら心疾患リスクはより高いでしょうし、仮にゆで卵で食べていても、他の食事がお粗末だとやはりリスクは高まるんではないかと。
また、コレステロール値については、量ではなくて善玉/悪玉の比率(#6)だという点も大事なポイント。確かに卵は善玉、悪玉コレステロール値を高めるんですが、結果的に両者の比率には影響はないんですね。
赤羽(Akabane)
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#1 Spence JD,Jenkins DJ,Davignon J,”Egg yolk consumption and carotid plaque“,Atherosclerosis,Vol.224,No.2,pp469–473,2012.
#2 Jang Yel Shin, Pengcheng Xun, Yasuyuki Nakamura, and Ka He,”Egg consumption in relation to risk of cardiovascular disease and diabetes: a systematic review and meta-analysis“,The American Journal of Clinical Nutrition,Vol.98,pp146–159,2013.
#3 Fuller NR, Sainsbury A, Caterson ID, Denyer G, Fong M, Gerofi J, Leung C, Lau NS, Williams KH, Januszewski AS, Jenkins AJ, Markovic TP,”Effect of a high-egg diet on cardiometabolic risk factors in people with type 2 diabetes: the Diabetes and Egg (DIABEGG) Study-randomized weight-loss and follow-up phase.“,Am J Clin Nutr. 2018 Jun 1;107(6):921-931.
#4 Victor W. Zhong; Linda Van Horn; Marilyn C. Cornelis,”Associations of Dietary Cholesterol or Egg Consumption With Incident Cardiovascular Disease and Mortality“,JAMA. 2019;321(11):1081-1095.
#5 Science Media Center,”expert reaction to study looking at eggs, cholesterol and heart disease”,accessed 22nd Apr 2019.
https://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-eggs-cholesterol-and-heart-disease/
#6 Millán J, Pintó X, Muñoz A, Zúñiga M, Rubiés-Prat J, Pallardo LF, Masana L, Mangas A, Hernández-Mijares A, González-Santos P, Ascaso JF, Pedro-Botet J,”Lipoprotein ratios: Physiological significance and clinical usefulness in cardiovascular prevention.“,Vasc Health Risk Manag. 2009;5:757-65.