セルフコントロールを高めて正しい意思決定が出来る人間になる「セルフナッジング」の4つの極意

正しい意思決定が出来る人間になる「セルフナッジング」の4つの極意

赤羽(Akabane)

今回は「正しい意思決定をするためには環境設定をしっかり行おう!」というお話です。

正しい意思決定が出来る人間になる「セルフナッジング」の4つの極意

セルフナッジングというのは、「将来の行動や意思決定を自分自身で正しく行えるように促すこと」です。ナッジングは、肘で小突くイメージで、他人を突き動かすものですが、これのセルフバージョンというわけです。

というわけで、この記事ではセルフナッジングについて詳しく掘り下げていきます。

意思決定を正しく行うための「セルフナッジング」のテクニック

2020年にヘルシンキ大学が発表したレビュー研究(#1)では、人々が各自で正しい意思決定を行えるように、セルフナッジングのテクニックを広めるべき!という主張をしていました。

この研究は、正しい意思決定を行えない市民を搾取・支配するような労働体制、政治の在り方に問題提起するような内容になっていて、そこから脱却するために、各自で質の高い意思決定ができたら費用対効果も高いし良いよね!という趣旨の話をしています。

では早速ですが、セルフナッジングのテクニックをザッとまとめて見ていきます。

  • セルフリマインダー
  • セルフフレーミング
  • セルフチェンジ・オブ・アクセシビリティ、デフォルト、フリクション
  • セルフソーシャル・コンパリズン&プレッシャー

セルフリマインダー

意思決定をしたいのに誘惑や邪魔が入りそうなとき、あらかじめそれらを避けるためにリマインダーをセットします。

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アンナは環境問題を気にしていて、牛肉が特に温室効果ガスの排出を高めてしまうことを知っているけれども、彼女の大好物は牛肉である。そして実家暮らしなので、牛肉を買わないというチョイスはできない。こんな時、セルフナッジングを行うならば、冷蔵庫の前に「温室効果ガスが環境を汚している写真」や「きれいな自然環境の写真」などを貼っておいてその都度正しい方向性を自身に思いださせることが効果的だ。

セルフフレーミング

フレーミングは、物の捉え方を変えてしまうテクニックですが、これは自分自身の行動にも応用できます。

セルフフレーミングの応用テクニックとしては、「リワード・バンドリング」という種類もあります。これは、正しい選択肢をより選びやすくするために別の良くない選択肢をちらつかせるテクニックのことで、例えばこんな感じ。

運動の習慣をつけたい

あー、今日は曇ってるし、何だかジョギングするの面倒くさいな~。
いいだろう、面倒くさいのはよくわかる。だが…
・曇ってるけどジョギングに出かける
・もう1、2時間ベッドで寝っ転がる
どっちの方がより今後の為になるだろうか?よく考えてみるといい。

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トムは無実の罪で罰せられ、島流しに遭ってしまい、そこでフェンスを磨く歩合制の肉体労働を課せられた。普通ならば、ここで「何で僕がこんな目に遭わなければならないんだ…」と悲観してしまうが、彼はあえてポジティブな見方をした。「僕はこんな島でフェンス磨きをするというなかなかない貴重な体験を出来ているんじゃないか?しかもやればやるほどお金がもらえる何て…!」

セルフチェンジ・オブ・アクセシビリティ、デフォルト、フリクション

アクセシビリティとは、物の入手し易さのことです。つまり、意思決定に必要な、あるいは邪魔になる情報やモノへのアクセスを自分で変えてしまおう!という算段です。

イメージはシンプルで、邪魔になるモノは遠ざけて、必要なモノは近づけるだけ。例えば、毎朝運動習慣をつけたい場合、朝起きて枕元にウェアが一式揃っていれば面倒くささは軽減しますし、更に玄関に向かうまでに、気を取られるものを置かないようにしておくと良さそうですね。(マンガ、お菓子、スマホetc..)

memo
アンナは環境問題を気にしていて、牛肉が特に温室効果ガスの排出を高めてしまうことを知っているけれども、彼女の大好物は牛肉である。幸い、彼女は一人暮らしを始めたので、好きなように食材を調達できる。こんな時、セルフナッジングを行うならば、あらかじめ牛肉を買わないようにする、スーパーでは牛肉のコーナーを避けて通る、牛肉の調理に必要な道具を持たない、という対策を講じることで、牛肉の誘惑から逃れやすくなる。

セルフソーシャル・コンパリズン&プレッシャー

ソーシャル・コンパリズン&プレッシャーとは、社会的な比較やプレッシャーをあえて利用するというもの。

比較では、正しい意思決定をするモチベーションを高めるために、丁度いい他人を思い浮かべる、プレッシャーを利用するならば、正しい意思決定をして目標を達成するために、事前に家族や友人、同僚など周囲の人にその話をしておく、などです。(パブリック・コミットメント)

memo
トムはアンナをライバル視している。彼らはお互いに環境に配慮する思想を持っていて、アンナは温室効果ガス排出を加速させる牛肉の消費を控えている。しかしトムは無実の罪で島流しにあってから、まともに環境問題に取り組むことができていない。そこでトムは、アンナが頑張っている姿を思い浮かべながら、周りの仕事仲間に宣言した「今日から僕は牛肉を控えようと思う。配給で牛肉が出たら皆に差し上げようじゃないか!」

セルフナッジングはナッジングの問題点も解決できる

更に、各人がセルフナッジングを身につけることによって、以下のような従来の問題点も解決できるということです。

自律性

職場での上下関係など、上からの指示でナッジングを受けるだけでは、自主的に意思決定を行おうという自律の精神が削がれてしまう。その点、セルフナッジングのテクニックを身につければ、この問題は回避できる。


可逆性

政策決定機関が一方的に出したナッジングをやらせる場合、そのナッジングは各市民たちが簡単に拒否できるものでなければならないが、現実はそう甘くはない。

例えば、臓器のドナー登録を許可or拒否する人の割合を調査した結果。初めからデフォルトで「臓器提供をしてもよい」という状態になっていて、拒否したい人だけがその意思を示す、というルールの時、ドナー登録を許可する割合がかなり高くなったことが分かっている。(デフォルト効果…人はデフォルト値が設定されていると、そこから変更するのを面倒くさがってやらない)

こうしたケースでは、政策決定機関側が市民の意思決定を意図的にコントロールすることが出来てしまうのが問題だった。その点、セルフナッジングのテクニックを身につければ、この問題は回避できる。


パブリック&プライベートドメイン

市民に、政策決定機関が一方的に出したナッジングをやらせるだけでは、その効果は公共の場だけにとどまってしまう。(公共の場は周りの目があるから強制力があるが、一人になった途端効力がなくなる) しかし、各自がセルフナッジングのテクニックを身につければ、この問題は回避できる。


好み・嗜好

他者の視点から、他人がどんな好みを持っていて、どんな方法であれば正しい意思決定が出来るようになるか?を見極めるのは難しい。その点、セルフナッジングのテクニックを身につければ、この問題は回避できる。

注意点・まとめ

ただし注意点として、上記のテクニックはまだ試験などで正式に実証されたものではありません。従来のナッジングのテクニックを、個人レベルで実践できるように応用したものなので、今後は効果の検証が必要でしょう。

というわけで、最後に今回の研究の結びを見ていきましょう。

ことわざにもあるように、「魚を一匹与えれば、その日を食いつなぐが、魚の釣り方を教えれば、一生食いっぱぐれることはない」である。心理学や行動経済学の見地から、行動に関する知見を共有することは、市民が力を取り戻す手段となり、彼らが目下の意思決定をデザインするコントロール能力を与える。言い換えれば、彼らが市民としてより優れた意思決定の建築家となる権利を与えることになるのだ。[筆者訳]

赤羽(Akabane)

セルフナッジングは、意志力や根性に頼らず、心理学や行動経済学の知見を駆使した戦略的な意思決定方法。「If Then プランニング」などと根っこは同じで、ある程度の効果が期待できそうです。

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参考文献&引用

#1 Samuli Reijula, Ralph Hertwig. Self-nudging and the citizen choice architect. Behavioural Public Policy, 2020; 1 DOI: 10.1017/bpp.2020.5