赤羽(Akabane)
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肥満の原因がよくわかる『セットポイント理論』に学ぶ「どうして人は太るのか?」
いきなり身も蓋もない結論ですが、最も大きな要因は食べ過ぎ(カロリーの摂りすぎ)が有力です。過去に行われた信頼性の高いメタ分析でも、「糖質制限も低脂肪ダイエットもカロリー摂取を揃えたら結局同じくらい痩せた!」との結論が出ています。
「食欲には逆らえないよ..」こんな風に思われる方もいるでしょうが、では何故現代人はこんなにも食べ過ぎてしまうのでしょう?その根本を「セットポイント理論」の観点から見ていきましょう。
体型の管理は脳の役割!『セットポイント理論』
そこで参考になるのが、2017年のレビュー論文(#1)で、「肥満は脳のせい!ヘドニックとホメオスタシスのメカニズムの融合」みたいなタイトルになっています。
でこの研究では『セットポイント理論』というものが登場しますが、これは簡単に言うとこんな感じの仕組みです。
実際にこの仕組みを支持する研究も結構出ていて、例えば面白いのが1971年の研究(#2)。この研究では普通体型の囚人7名を対象にそのうち5名に一日10000kcalも食べさせるというヤバいことをしていますが、結果は次のようになったといいます。
・しかし実験が終わるとみるみる体重が落ちていった。
・結果的にはほぼ元の体型&体重に戻った。
・普通にしていた他の2名は変化なし。
正にセットポイントを象徴するような結果ですが、このように設定されたポイントをキープしようと体が働く性質をホメオスタシス(#3)と言います。食後に上がった血糖値をインスリンが下げようとするのも正にコレですね。
本来はこうした脳の制御が働いていて、食べ過ぎをセーブしてくれるんですが、ふとした時にこの制御が効かなくなってしまうことがあります。それがずばり、ヘドニック(快楽)のシステムが暴走した時です。
これは脳の報酬系という回路が司っているシステムで、快楽ホルモン「ドーパミン」の分泌に関わっています。これが暴走すると食欲が止まらなくなって食べ過ぎに繋がるんですが、その要因にはザっと次のようなモノが挙げられております。
味の良いカロリー密度が高い食品の増加
大昔には存在しなかったファストフードやスナック菓子などの台頭であります。こうした味をよく加工された食品は、脳の報酬系という回路を強く煽って、必要以上に「もっと欲しい!」と食欲を暴走させてしまうんですね。
食欲をかき立てるフードキューが増えた
昔に比べ、街中で食べ物の広告が増えたりそこらじゅうにお店があったりして食べ物へのアクセスが容易になってしまいました。するとどうなるか。普通に歩いていてもふと食欲をかき立てられる機会が増えてしまいますね。
低価格な食品のほとんどは塩分が多く甘い
大衆にとって低価格は味方。ですがお安い食べ物は塩分が多かったり甘すぎたり、何かと脳の報酬回路を刺激します。そしてこれがカロリーの摂りすぎに繋がるのですね。
ストレス
ストレスで暴飲暴食に走ったことがある方は多いかと。いわゆる“ストレス社会”に生きる私たち現代人にとっては切り離せない問題であります。
マインドレス&習慣化した食事
インスタントや冷凍食品の増加など、今や「食べる」という行為はサッと済ませるものに変わってしまいました。中には短い時間でスマホを見ながら片手間で済ませる人も少なくありません。こうした食事へのマインドレス化が、一度の食事から得られる満足感を弱めてしまって、結果的に食べ過ぎへと繋がります。(例:映画館のポップコーン、居酒屋のおつまみ)
でこうした要因が重なって、セットポイントの閾値を超えたカロリーを平気で摂ってしまうというわけです。つまり今回の研究でいう、ヘドニック(快楽)システムが体のバランスを保っているホメオスタシス(恒常)システムを狂わせてしまうんですね。
まとめ
赤羽(Akabane)
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#1 Berthoud HR, Münzberg H, Morrison CD,”Blaming the Brain for Obesity: Integration of Hedonic and Homeostatic Mechanisms“,Adv Physiol Educ. 2015 Dec; 39(4): 259–266.
#2 Salans LB, Horton ES, Sims EA,”Experimental obesity in man: cellular character of the adipose tissue.“,J Clin Invest. 1971 May;50(5):1005-11.
#3 Harold Modell,William Cliff,Joel Michael,Jenny McFarland,Mary Pat Wenderoth,Ann Wright,”A physiologist’s view of homeostasis“,Adv Physiol Educ. 2015 Dec; 39(4): 259–266.