赤羽(Akabane)
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新型コロナウイルス(COVID-19)の不思議な兆候「味と臭いが分からない」に対する科学的な見解とは?
2019年12月末、中国の武漢で初の感染者が確認されてから、数か月で瞬く間に世界中に感染が拡大した「新型コロナウイルス(COVID-19)」
最近になって、「新型コロナの兆候として、味や嗅覚が感じられなくなる」という話が持ち上がってきましたが、これについての科学的な見解はどうなっているのでしょうか?
検査でCOVID-19の陽性反応が出た患者で「味覚と嗅覚の異常」が多い!という研究結果
2020年4月上旬にカリフォルニア大学が発表した研究(#1)によると、COVID-19感染の兆候として「一時的に味覚と嗅覚が失われる」という診断項目は有効である!とのことです。
この研究は、カリフォルニア大学サンディエゴ校の医療機関でCOVID-19の検査をした1,480名を対象に、彼らの味覚や嗅覚の異常と検査結果に焦点を絞って調査をしたもの。対象者らはインフルエンザのような症状を抱えて検査を受けていて、検査は2020年3月3日~29日の間で行われた様子。
そして検査結果は、うち102名で陽性反応が出て、残りの1,378名は陰性でした。この調査では、最終的に58名の陽性患者と203名の陰性患者のデータを調べて、そこから以下のようなことが判明したようです。
- 嗅覚がなくなったと報告した陽性患者は68%にのぼった(40/59名)
- 味覚がなくなったと報告した陽性患者は71%にのぼった(42/59名)
- 陰性患者ではそれぞれ16% (33/203)と17% (35/203)だった
まとめると、COVID-19感染の兆候として「味覚と嗅覚の異常」は診断項目に入れても良いのでは?という可能性が示唆されました。改めて、味覚と嗅覚の異常は感染の分かり易い指標になり得るのではないか?と。
他に分かったこととしては、喉の痛みは陰性患者で多く見られたとのことで、こちらはCOVID-19の兆候としてはあまり関係がないのでは?という見解でした。
またこうした味覚や嗅覚の異常は、大半が症状の完治に伴って数週間で回復していったようで、嗅覚に関しては74% (28/38)の割合で治っていったとのこと。残りの回復していない患者については、調査時点でまだ診断されて間もなかったりしたみたいなので、恐らくじきに治っていくだろうとの見解でした。
注意点・まとめ
ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくと良さそうです。
- 対象者は「軽症」に分類される患者だった:入院が必要な程の症状の患者はほとんどいなかった
- 調査はセルフレポートのみだった:味覚や嗅覚の異常については自己申告制で、客観的な指標までは調べ切れていない
- 想起バイアスの恐れがある:調査は検査結果が既に出ている患者に対して行われたので、患者たちの主観が混じる他、メディアなどの報道によるイメージに左右されて回答が正確性に欠けてしまっている可能性も否定できない
また「味と臭いが分からない」という症状については、「何もCOVID-19に限った話ではないでしょう」という主張があります。現にCOVID-19だけでなく、風邪やインフルエンザなどの上気道感染症全般に嗅覚の異常が見られる(#2)という報告は過去にも上がっています。回復の流れに関しても、症状の完治とともに数週間程度で収まっていくという点で似ているようです。
では以上も踏まえて、最後に今回のまとめを見ていきましょう。
- 新型コロナウイルス(COVID-19)感染の不思議な兆候として「味と臭いが分からない」という事例が多数報告されている
- 今回の研究によると、COVID-19の陽性反応が出た患者で味覚や嗅覚を失ったと報告する割合がかなり多かった
- 味覚や嗅覚の異常は確かにCOVID-19と関係がありそうだが、こうした症状は風邪やインフルなどの他の感染症でも割と報告されている、という点には注意が必要そうだ
赤羽(Akabane)
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#1 Yan CH, Faraji F, Prajapati DP, Boone CE, DeConde AS. Association of chemosensory dysfunction and Covid-19 in patients presenting with influenza-like symptoms [published online ahead of print, 2020 Apr 12]. Int Forum Allergy Rhinol. 2020;10.1002/alr.22579.
#2 Welge-Lüssen A, Wolfensberger M. Olfactory disorders following upper respiratory tract infections. Adv Otorhinolaryngol. 2006;63:125–132.