隔離、学校閉鎖、リモートワーク…新型コロナウイルス(COVID-19)対策の効果をシミュレーションした結果

隔離、学校閉鎖、リモートワーク...新型コロナウイルス(COVID-19)対策の効果は?

赤羽(Akabane)

今回は「新型コロナの対策って効果はありそうなの?」というお話です。

隔離、学校閉鎖、リモートワーク…新型コロナウイルス(COVID-19)対策の効果やいかに?

2019年12月、中国の武漢で初の感染者が出てから、新型コロナウイルス(COVID-19)の勢いは止まりません。

2020年4月現在、日本でも8つの都道府県で「緊急事態宣言」を発令していて、「不要不急の外出は控えましょう!」との要請が出ています。こうして人との接触を8割減らすことで、感染爆発の終息の見込みが立つとの見解みたいですね。

そこでこの記事では、上記のようなCOVID-19対策が実際どのくらい役に立っているのか?というデータを見ていきます。

医学雑誌『Lancet(ランセット)』姉妹雑誌に掲載されたシミュレーション研究によると..

2020年3月末に医学雑誌『Lancet(ランセット)』姉妹雑誌に掲載された研究(#1)によると、隔離や学校閉鎖、リモートワーク…といったCOVID-19対策は何もやらないよりも格段に効果的だ!ということが分かったようです。

この研究はシンガポールを舞台に、COVID-19の人から人への感染拡大やその対策を講じた場合の効果についてシミュレーションしたものです。具体的な内容はザっと以下の通りです。

  • 100件の感染ケースをランダムに集め、80日間の期間でこれらのデータを元に感染の拡がり方をシミュレーションした
  • インフルエンザ感染の統計手法を使い、人口統計や人の動き、学校や職場、家族間の人と人との接触率などを考慮したシミュレーション分析を行った
  • 疫病の感染力を数値化した「基本再生産数(R0)」には、【R0=1.5、R0=2.0、R0=2.5】が使われた

基本再生産数については、例えば、R0=1.5であれば、1人の感染者から1.5人に感染が拡がるという見方になります。要は、この感染力の違いによって、シミュレーション結果がどうなるのか?という比較&想定をしたんですね。

そしてこうしたシミュレーションの結果、こんなことが分かりました。

R0=1.5の場合

  • 何の対策も講じなかった場合、80日間で感染者は中央値で累計279,000名に増加する(IQR 245,000–320,000)
  • 隔離だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計15,000名まで抑えられる(IQR 800–30,000)
  • 学校閉鎖だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計10,000名まで抑えられる(IQR 200-28,000)
  • リモートワークだけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計4,000名まで抑えられる(IQR 200–23,000)
  • 上記3つのコンビネーションによって、80日間で感染者は中央値で累計1,800名まで抑えられる(IQR 200–23,000、-99.3%)

R0=2.0の場合

  • 何の対策も講じなかった場合、80日間で感染者は中央値で累計727,000名に増加する(IQR 670,000–776,000)
  • 隔離だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計130,000名まで抑えられる(IQR 38,000–244,000)
  • 学校閉鎖だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計97,000名まで抑えられる(IQR 14,000–219,000)
  • リモートワークだけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計67,000名まで抑えられる(IQR 11,000–145,000)
  • 上記3つのコンビネーションによって、80日間で感染者は中央値で累計50,000名まで抑えられる(IQR 2,000–143,000、-93.0%)

R0=2.5の場合

  • 何の対策も講じなかった場合、80日間で感染者は中央値で累計1,207,000名に増加する(1,164,000–1 249,000)
  • 隔離だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計520,000名まで抑えられる(IQR 268,000–754,000)
  • 学校閉鎖だけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計466,000名まで抑えられる(IQR 175,000–728,000)
  • リモートワークだけ行った場合、80日間で感染者は中央値で累計320,000名まで抑えられる(IQR 116,000–558,000)
  • 上記3つのコンビネーションによって、80日間で感染者は中央値で累計258,000名まで抑えられる(IQR 65,000–508,000、-78.2%)
memo
*IQR…累計感染者数の分布のバラつき

まとめると、感染者の隔離や学校閉鎖、リモートワーク(職場での接触を避ける手段)といったCOVID-19対策は個々でもやらないよりは格段に効果的であり、同時に組み合わせることで最大の効果を発揮できるということが分かりました。

一方でCOVID-19の感染力が大きい場合で想定すると、あらゆる対策を同時に講じても感染拡大の抑制が効きづらくなっているという結果も。1人の感染が1.5人に拡がるのか、2人に拡がるのか、という違いだけでも数値にかなり大きな差が生まれているのが分かりますね。

またこのシミュレーションでは、COVID-19の無症状患者の割合によって上記の数値がどう変化するか?という点も調べてくれていました。結論、無症状患者の割合が全体の7.5%以上で増えるにつれて、やはり上記のような対策で防げる感染拡大にも限界があるようです。

R0 = 1.5の場合

  • 隔離をしていても、無症状患者の割合が全体の50%を占める場合、累計の感染者数が314,000名まで増える(IQR 276,000–343,000)
  • 学校閉鎖をしていても、無症状患者の割合が全体の50%を占める場合、累計の感染者数が312,000名まで増える(IQR 278,000–340,000)
  • リモートワークをしていても、無症状患者の割合が全体の50%を占める場合、累計の感染者数が269,000名まで増える(IQR 215,000–308,000)
  • 上記3つを講じていても、無症状患者の割合が全体の50%を占める場合、累計の感染者数が267,000名まで増える(IQR 216,000–307,000)

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザっと以下の点は押さえておくとよろしいかと思います。

注意
  • 移民労働者や観光客、長期ビザ保有者等は含まれなかった
  • 人と人の接触は国や文化によっても異なるので、今回の感染拡大シミュレーションの結果をどこまで一般化できるか?も不明
  • 細かい動きまでは追えないので、対策を講じるベストなタイミングや、交通機関を利用中の感染、感染者が隔離を嫌がり対策が遅れた場合、などの想定はできない

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • シミュレーションの結果、感染者とその家族の隔離、学校閉鎖、リモートワークなどの職場での接触対策を講じることで、何もしない場合より最大99%近く感染拡大を抑えられることが分かった
  • 上記の対策はセットで行うのが最適で、次点の案として隔離 + リモートワークが強力な効果を発揮する模様
  • 1人の人間から感染する二次感染数が増える程、こうした対策でも歯止めが効かなくなる恐れがある

赤羽(Akabane)

結果、感染者やその濃厚接触者である家族を一時的に隔離したり、学校閉鎖やテレワーク・リモートワークなどの対策を講じることはかなり効果的との可能性が示唆されました。教育現場では早々に自宅待機を希望する家庭が多かったり、仕事の方が「行かなくちゃお金が..」「休んだらクビになっちゃう..」といった経済的&社会的な強制力がある点を踏まえると、学校よりも仕事関連での感染経路の対策が急がれる印象です。

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参考文献&引用

#1 Joel R Koo, et al. Interventions to mitigate early spread of SARS-CoV-2 in Singapore: a modelling study. The Lancet Infectious Diseases, March 23, 2020.