長引くうつ病に効くと話題の「経頭蓋磁気刺激(TMS治療法)」はどこまで役に立つのか?現段階での見解

長引くうつ病に効くと話題の「経頭蓋磁気刺激(TMS治療法)」はどこまで役に立つのか?現段階での見解

赤羽(Akabane)

1985年頃から、うつ病への効果が取り沙汰されるようになった「経頭蓋磁気刺激(TMS)」という治療法があります。これは特製のコイルを使って大脳に電磁気刺激を与えるという手法でして、ここ数十年で多くの研究がその効果を検証しています。アメリカでも、なかなか治らないうつ病に対する治療法として、10年ほど前にアメリカ食品医薬品局(FDA)からの認可が下りている状態であります。

長引くうつ病に効くと話題の「経頭蓋磁気刺激(TMS治療法)」はどこまで役に立つのか?現段階での見解

TMS治療法のうつ病治療効果はどのくらいのものなのか?をまとめたレビュー研究

2019年にキング・ジョージズ・メディカル大学が発表したレビュー研究(#1)では、過去に行われたTMS治療関連の系統的レビューメタ分析の結果をざっくりとまとめてくれていました。

TMS治療法のメカニズムとは?

TMS治療法の背景にあるメカニズムは、脳の活性化というよりは「大脳を局所的に電磁気刺激して機能を対称的に矯正してあげる」感じです。というのも、うつ病患者ではこの機能が左右で非対称的であることが分かっているから(#2)です。

TMS治療法の細かい分類は?

TMS治療法にも色々な変数がありまして、モノによって以下のような違いがあります。

  • 刺激を与える部位: 左前頭前野、右前頭前野、またはその両方を刺激するケース
  • 周波数の高さ: 高頻度刺激(High-Frequency, ≧1Hz)、低頻度刺激(Low-Frequency, ≦1Hz)

よく臨床試験で登場するのが、左前頭前野に対する高頻度電磁気刺激を用いるパターンです。うつ病患者では、左前頭前野の活動低下がみられるケースが多く、この部位を高頻度刺激で活性化させるというのが狙いです。一方で、右前頭前野に低頻度電磁気刺激を与えるパターンもありまして、こちらは反対に過活動状態の右部位が抑制するように働きかけます。

TMS治療法の効果とは?

以上を踏まえて、レビューの結果はザックリとこんな感じになっていました。

結果
  • TMS治療はプラセボ(効果のない偽の治療)と比べると、うつ病の寛解率を高めたりといった治療効果が確認された
  • TMS治療は電気けいれん療法と比べるとやや効果は劣るが、電気けいれん療法では脳に軽度の障害が残るなどの副作用が目立った
  • TMS治療法の効果はあまり長持ちしないかもしれず、治療から8~16週間ほど経つと抗うつ効果の低下が見られた。しかし定期的にTMSのセッションを受けたり、抗うつ剤を飲んでいたりした患者では1年以上も効果が続いていたという報告もあった

まとめると、TMS治療法は長引くうつ病の治療法として効果的であり、今のところ副作用も目立たず安全性も高い!といったところでしょうか。その効果は定評のある「電気けいれん療法」には及ばないものの、副作用がほとんど見られない点を踏まえると安心して受けやすい治療だと言えましょう。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、現状では以下のような課題もあるようです。

注意
  • 長期間の効果を検証した研究は少ない: 短期的な効能を確認した研究ばかりで、長期間の効果はよくわかっていない
  • 子どもや青年を対象にした研究はかなり少ない: こうした年齢層の患者に対しての効果や安全性は確立されていない

2つ目の注意点に関しては、いくつかの研究(例: #3)で子どもに対しても成人と同様にうつ病治療効果が確認されており、目立った副作用はなかったようですが。要はデータがまだ少ないということですね。

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • 特製のコイルを使って大脳に電磁気刺激を与える「経頭蓋磁気刺激(TMS治療法)」でうつ病に対して治療効果があるとされる
  • 過去数十年で、系統的レビューやメタ分析などのまとまった研究結果が報告されてきており、長引くうつ病の治療効果を裏付ける結果が多数あがっている
  • 他の選択肢である電気けいれん療法と比べると効果は劣るものの、副作用もほとんど見られず現時点では安全だと言える。治療後も定期的にセッションを受けたり抗うつ剤を服用することで、長期間治療効果を維持できる可能性も示唆されている

赤羽(Akabane)

TMS治療は、一般的なものだと20~30分で1セッションが完了し、これを何回か定期的に続けることで効果が表れ始めてくるという算段です。嬉しいことに日本でも保険適用が認められているようですが、その要件はまだ厳しいみたいですね。

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参考文献&引用

#1 Somani A, Kar SKE. fficacy of repetitive transcranial magnetic stimulation in treatment-resistant depression: the evidence thus farGeneral Psychiatry 2019;32:e100074. doi: 10.1136/gpsych-2019-100074

#2 George MS, Nahas Z, Molloy M, Speer AM, Oliver NC, Li XB, Arana GW, Risch SC, Ballenger JC. A controlled trial of daily left prefrontal cortex TMS for treating depression. Biol Psychiatry. 2000 Nov 15;48(10):962-70. doi: 10.1016/s0006-3223(00)01048-9. PMID: 11082469.

#3 Wall CA, Croarkin PE, McClintock SM, Murphy LL, Bandel LA, Sim LA and Sampson SM (2013) Neurocognitive effects of repetitive transcranial magnetic stimulation in adolescents with major depressive disorder. Front. Psychiatry 4:165. doi: 10.3389/fpsyt.2013.00165