赤羽(Akabane)
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第三者の視点からエクスプレッシブライティングをするとうつ症状に逆効果?
早速ですがこの件の新しい研究を覗いてみましょう。
客観的に書くエクスプレッシブライティングはうつ病に逆効果かも
これは2019年にノートル・ダム大学が発表した研究(#1)で、エクスプレッシブライティングに第三者の視点を取り入れるとメンタル改善効果が高まる!という仮説を確かめたもの。
実験は大きく2つに分かれて、それぞれ104名、80名の学生を対象に、どちらも2週間で毎日ライティングを行なっています。
で大まかな内容は、まず参加者らを次のようなグループに分けて、
- 客観視エクスプレッシブライティング(SDEX):5〜10分で紙にその日あったストレスフルな出来事や最も印象に残ったことについて、三人称のみを使って書き出す
- 通常のエクスプレッシブライティング(NEX):5〜10分で紙にその日あったストレスフルな出来事や最も印象に残ったことについて書き出す
- 何もしないグループ(CON):文字通り何もしない
SDEXを残りの2グループと比較する流れです。比較するのはうつ症状レベル診断や認知の脆弱性(メンタルの脆さ)などで、エクスプレッシブライティングによってどんな変化があるか?を比べたんですね。
ちなみにSDEXのライティングの具体例を挙げておくと、こんな感じ。
私は朝起きて、朝食を済ませに食堂へ向かった→ジョーダンは朝起きて…
彼や彼女でもいいし、自分の名前を入れてもOKです。
ではこうした実験の結果、どんなことが分かったんでしょう?結果を見ていきましょう。
- 実験前の参加者らのうつ症状レベルは同じくらい
- SDEXグループは実験後、最もうつ症状が高かった
- メンタルが脆い人はよりこの傾向が見られた
どうやら仮説とは逆に、客観的にライティングするSDEXグループは実験後のうつ症状レベルが高くなったみたい。しかもこうした結果は両方の実験で確認されたようで、メンタルが崩れやすい人は特にこの傾向が見られました。
メカニズムとしては、客観視することでかえってライティングの自己肯定的な文脈の効果がなくなっちゃうんでは?と考えられています。そもそもライティングにはセルフコンパッション的な要素もあって、折角のこの恩恵が客観的に書いてしまうことで受けられないんじゃないか?と。
客観視は、物事をあえて他人事のように捉えることで、ネガティブな出来事や気持ちも一歩引いて見れるというメリットが見込まれていましたが、どうやらうつ症状に対しては効果がないばかりか逆効果の可能性も示唆されました。
注意点・まとめ
ただし注意点も幾つかあって、
- 対象となったのはアメリカの学生のみ:ほかの年齢層や地域の人にも同じことが言えるか?はわからない
- 比較的女性が多い:男性にも同じレベルで当てはまるか?はわからない
- 研究チームは参加者らのライティングを集めていない:結局どんなことを書いていたか?は分からず、何を書けば今回のような結果になるのかが不明。
この辺りは押さえておくとよろしいかと思います。どうやら研究チームは、参加者各自に自由な表現で描いて欲しかったようで、あえて日記を集めなかったとのこと。
では以上を踏まえて今回のまとめといきましょう。
- 客観的に書くエクスプレッシブライティングはうつ症状を逆に高めるかも
- 特にメンタルが脆い人は注意が必要
- 一般化にはまだ程遠いレベルだが、エクスプレッシブライティングにもデメリットがあるかも…ということでひとつ
こんな感じでしょうか。最近では2018年にメタ分析(#2)も出ていて、エクスプレッシブライティングはうつ病改善には効果なし!との結果も出ています。第三者の視点で書くかどうか?に拘らず、あまりうつ病対策としては役に立たないのかもしれませんね。
赤羽(Akabane)
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#1 Annaleis K. Giovanetti, JUlia C. Revord, Maria P. Sasso, and Gerald J. Haeffel (2019). Self-Distancing May Be Harmful: Third-Person Writing Increases Levels of Depressive Symptoms Compared to Traditional Expressive Writing and No Writing. Journal of Social and Clinical Psychology: Vol. 38, No. 1, pp. 50-69.
#2 Maren Reinhold, Paul‐Christian Bürkner, Heinz Holling. Effects of expressive writing on depressive symptoms—A meta‐analysis. Science and Practice Volume 25, Issue 1.