新型コロナウイルス(COVID-19)対策「自主的なイベントの延期・中止」によって日本における感染拡大はどのくらい抑えられるのか?

新型コロナウイルス(COVID-19)対策「自主的なイベントの延期・中止」によって日本における感染拡大はどのくらい抑えられるのか?

赤羽(Akabane)

今回は「新型コロナ感染拡大に伴う大規模なイベント自粛の効果」についてのお話です。

新型コロナウイルス対策「自主的なイベントの延期・中止」によって日本での感染拡大はどのくらい抑えられるのか?

COVID-19の感染拡大が日本でも広がり始めたのを受けて、2020年2月下旬から3月中旬にかけて、あらゆる大規模イベントの自粛措置が講じられました。スポーツ観戦からアーティストのライブまで、大人数が密集して飛沫感染が爆発する恐れがあったからですね。

こうした対策には、常に経済的な打撃がついて回りますが、そもそもイベントの自粛には一体どれ程の効果があるんでしょうか?

大規模なイベントの延期・中止措置…COVID-19を抑え込むのにどのくらいの効果があるのか?

2020年3月16日に国立感染症研究所が発表した研究(#1)によると、大規模なイベントの延期・中止などの自粛措置は、COVID-19の感染を下げる効果がある!とのことです。

この研究では、大規模なイベント自粛が起こる前の2020年1月14日から2月26日までと、起こってから3月11日までの期間でCOVID-19の感染力がどのように変化したか?を分析しています。

具体的には、上記の期間中に感染日付がハッキリしている新たな感染者が412件確認されて、これらのデータを基にCOVID-19の感染力などを算出していく流れになります。

COVID-19の感染力には、お馴染みの「基本再生産数(R0)」を基準として使っています。基本再生産数(R0)とは「R0 = 〇〇」で表されるウイルスの感染力に関する数値で、例えば「R0 = 2.5」の場合、そのウイルスは1人の感染者から新しく2.5人に伝染する程の感染力を持っているということを意味します。

そして上記の分析の結果、以下のようなことが分かりました。

結果
  • イベント自粛措置の前には「R0 =2.50」だったのが、それ以降は「R0 =1.88」になった(95% CI 1.68~2.02)
  • イベント自粛措置がとられなかった場合、感染のピークは2020年6月6日と推測され、それまでに278万人が新たに感染する見通し(95% CI 6月7~12日、263~289万人)
  • イベント自粛措置がとられ続けた場合、感染のピークは2020年7月31日と推測され、それまでに136万人が新たに感染する見通し(95% CI 7月14日~9月9日、88.8~169万人)

ここから言えるのは、一か月足らずの大規模なイベント自粛によってその後のウイルスの感染力が25%低下したということです。イベント自粛後も依然として感染力は強いですが、1人の感染者が新たに2.5人に移すという状況に比べれば随分落ち着いていると言えるでしょう。

また全体的な感染者数で見ると、イベント自粛措置がとられなかった場合では全国で8150万人(95% CI 8030~8230万人)にのぼる一方で、自粛措置がとられることで6530万人(95% CI 5580~7030万人)まで抑え込むことができるという予測もたてられていました。

注意点・まとめ

注意点としては、ザっと以下を押さえておくと良さそうです。

注意
  • 正式に出版されてはいない:学術雑誌に出版されるにあたって必要な他の研究者による査読を受けていない
  • 予測に使われた「SIRモデル」がちょっと単純:下記を参照
  • 一部数字に誤りが見られる:論文内で、研究チームは「イベント自粛前と後ではCOVID-19の感染力が35%減少している」と書いているが、基本再生産数を単純計算すると「約25%の減少」が正しい

今回の推測には「SIRモデル」という感染症の推移予測を短期的に行う手法が採用されていて、これがちょっと単純だという点を軽く補足しておきます。

SIRモデルでは、人口を「Susceptible(未感染でこれからかかる疑いのある人)」「Infected(感染している人)」「Recovered(既に回復して免疫を持っている人)」の3つにザックリ分けて、Rの人は免疫がついてもう罹患することはないから、Sの人がIに変わるごとにウイルスの感染力(R0)は減っていくよね…という前提で、今後の感染の見通しが推測されます。

ただしこのモデルには、会社や家庭、学校といった小規模のコミュニティで講じられた対策など、複雑なところまで見通す力はなくて、あくまで感染者やウイルスの感染力の推移をベースにした大まかな試算になります。

赤羽(Akabane)

まとめると、自主的なイベントの延期・中止といった施策は確かにCOVID-19感染拡大を抑える効果がありそうですが、それ単体で完全にカバーすることはできない!という感じでしょうか。他にも国全体で人込みへの外出を控えたり、こまめな手洗いを心がけるなど、マクロからミクロまで色々なところで最善を尽くして始めて感染拡大を食い止めることができそうです。

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参考文献&引用

#1 Yoshiyuki Sugishita, Junko Kurita, Tamie Sugawara, Yasushi Ohkusa. Preliminary evaluation of voluntary event cancellation as a countermeasure against the COVID-19 outbreak in Japan as of 11 March, 2020. medRxiv. March 16, 2020.