マインドフルネスは周りの人に手を差し伸べる利他的な行いを加速させるか?

マインドフルネスは周りの人に手を差し伸べる利他的な行いを加速させるか?

赤羽(Akabane)

今回は「マインドフルネスを鍛えれば周りの人にもメリットがあるかも?」というお話です。

マインドフルネスは好社会・利他的な行いを加速させるか?

マインドフルネスとは、「今ココの意識」とよく言われている概念のことです。目の前の踏切が渡る前に鳴らないか?ご飯を食べながらラインが気になる!などなど..現代では特に目の前の出来事から気を逸らされることが多くなっていて、このマインドフルネスとは随分かけ離れた暮らしになってしまっています。

マインドフルネスは近年人気がすごいですが、それに伴って効果を検証する研究結果も増えてきました。そこでこの記事では、マインドフルネスは周りの人にも恩恵があるかもよ?というデータを見ていきましょう。

マインドフルネスは周囲の人のメリットにもなる!というメタ分析

2018年にオーストラリアカトリック大学が発表した系統的レビュー&メタ分析(#1)によると、マインドフルネスは軒並み周りの人の為に何かをしようという利他的な心意気を高めることがわかったようです。

この研究は31件の関連研究(12件は観察研究、21件は試験)から17,241名を対象に、状態(state)と特性(trait)の両方のマインドフルネス気質が利他的な心意気・行いにどのくらい関係しているか?をまとめたものです。

memo
状態(state)…一時的に見られる性質
特性(trait)…その人の特性として一貫して見られる性質

次にここで言う「利他的な心意気・行い」の定義づけをハッキリさせておきましょう。

  • 他人の為になることをしようという気持ち、実際の行い
  • 基本的に動機に見返りを求めることはない
  • ただし時に社会全体のルールや道徳の力に背中を押されて動くこともある

では以上を踏まえて、全体の結果を見てみましょう。

結果
  • 特性マインドフルネスは利他的な心意気や行動と中〜大くらいの相関がみられた(d = .73 CI 95% 0.51 ~ 0.96)
  • マインドフルネスを鍛える実験は利他的な心意気や行動を高める中くらいの効果がみられた(d = .51 CI 95% 0.37 ~ 0.66)

ここから言えるのは、マインドフルネス気質がある人は周りの人の為になる行いを日頃から意識していて、マインドフルネスを鍛える行動自体もそういった心意気を育むのに良さそうだ、ということです。ちなみに「d = 」の数値は「効果量」といって、統計的に効果の大きさを表したものです。

またもう少し詳しくみてみると、こんなことも分かりました。

結果
  • 利他的な心意気や行いの測定方法によって効果に差が出ていて、他人からの評価よりもセルフレポートで高くみられた(d = .89 CI 95% 0.80 ~ 0.98)
  • 他人からの評価の場合、見ず知らずの人よりも知り合いからの評価のほうが効果が高かった(d = .91 CI 95% 0.76 ~ 1.05)
  • 参加者の年齢によっても効果に差が出ていて、未成年よりも成人、歳をとるほど高くみられた(d = .94, CI 95% 0.76 ~ 1.12)

マインドフルネスが利他的な性質を高めるメカニズムとは?

ではマインドフルネスがどのようにして利他的な行いを高めていくんでしょう?考えられるメカニズムは以下の通りです。

  • 研ぎ澄まされた集中力や注意力が周りの人のSOSに気付きやすくする
  • 内部的な変化を敏感に感じ取りやすくなって、他人の感情を汲み取ったり処理する脳の部分(島皮質)が活性化する
  • ポジティブ感情(愛情、喜び、感謝)が高まってネガティヴ感情(怒り、恐れ、罪悪感)が減る
  • 感情のコントロールが上手くなって、他人の苦しみに直面した時にも取り乱さず、周りからの好意に対してポジティブに感情表現ができるようになる
  • 思考を文字通りの真実として具体的に捉えずに、一つのメンタルの動きとして抽象的に捉えることができ、他人の為になる行いを妨げる判断や推測の影響を受けにくくなる
  • 「自分が一番かわいい」といった、自己を殻の中に閉じ込めたメンタリティから、人と人で互いに助け合うオープンなメンタリティに変わっていく

現時点ではまだどの経路が強く影響するのか?などはハッキリしていませんが、どれも相互に影響しあっているんだろうな〜と思います。

現に、今回の分析結果としても、マインドフルネスの「判断せず観察する性質」のおかげで他人の気持ちやSOSに気付きやすくなったり、感情のコントロールが上手くなった結果では?と考えられています。

注意点・まとめ

ただし注意点もあって、ザッと以下の点は押さえておくと良さそうです。

注意
  • 状態・特性マインドフルネスでどちらがどのくらい利他的な行いに繋がるか?まではわからない:高いマインドフルネス気質とマインドフルネスを鍛える訓練とで、どちらがどのくらい利他的な行いを高めるか?は不明
  • マインドフルネス介入試験のデザインはバラバラ:マインドフルネスを鍛える訓練のプログラムがバラバラなので、どんな練習を積めばベストなのか?は不明
  • どこまで一般化できるか?問題:研究数やサンプルサイズは十分だが、参加者は北アメリカやヨーロッパの人が大半でアジア圏の人は含まれていない

では最後に今回のまとめを見ていきましょう。

ポイント
  • マインドフルネスは「今ココの意識」とよく言われている概念のことで、自分の思考をむやみにジャッジせずに観察する力や、目の前のことに意識を向ける能力と関係がある
  • 今回のメタ分析では、全般的に高いマインドフルネス気質やマインドフルネスの特訓が、中〜大くらい利他的な行いと相関があることがわかった
  • 細かい部分の分析はできていないものの、マインドフルネスが好社会的・利他的行動を高めるのは間違いなさそう

まだまだ課題はありますが、ここ最近の中ではかなり質の高い分析だったと思います。

赤羽(Akabane)

マインドフルネスは近年話題ですが、伴って実証研究も徐々に進んできている印象ですね。まだ実験間の細かいデザインやマインドフルネスの定義自体のバラつきが気になりますが、他にも以下のような知見も得られています。

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参考文献&引用

#1 James N Donald et al. Does your mindfulness benefit others? A systematic review and meta‐analysis of the link between mindfulness and prosocial behaviour. British Journal of PsychologyVolume 110, Issue 1, 2018.