赤羽(Akabane)
目次
ACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)はフィジカル&メンタルにどのくらい効果があるのか?
まずはACTって何?というところからザっと見ていきましょう。
ACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)とは?
ACTは「Acceptance & Commitment Therapy」の略で、1999年に臨床心理学者のスティーブン・C・ヘイズ氏が提唱した認知行動療法の一種(#1)です。
その根底は、文字通り「受容の精神(アクセプタンス)」と「目標へ向けた実践の繰り返し(コミットメント)」にあります。目の前で起きる出来事を受け容れて開放的になりつつ、目標に向けたテクニックをどんどん実践、そして巻き起こる感情や出来事に対して歪んだ解釈をしないようになることを目的にしています。
ACTはその頭文字をとって、
- A(acceptance):感情や状況の変化をあるがままに「受け容れる」
- C(choose):自分にとって価値あるものを「選ぶ」
- T(take action):選んだものを「実行する」
こんな風に表現されることもありますね。正に言い得て妙という感じかと思います。
ACTはメンタル&フィジカルの問題改善にどのくらい効果があるのか?
ではここから本題へ。この問題については2014年にストックホルム大学が発表したメタ分析(#2)が参考になります。
この研究は過去60件のRCTから4234名(平均39.9歳)を対象にACTのメンタル改善効果ってどのくらいなの?という問題を調べたもの。
具体的には、まず彼らを次のようなグループに分けます。
- ACTグループ:ACTの治療を受ける
- 比較グループ:最も多かったのは認知行動療法との比較で21件。他には「何もしない」場合や、「普段通りの治療を実施する」場合もあった
で精神疾患から肉体的な疾患、職場でのストレスまで幅広い問題の改善効果を調査していて、こうした問題を抱える人のみを対象にACTの効果をチェックしています。
疾患の例
- 精神疾患:うつ病、精神病、薬物依存症、境界性パーソナリティー障害など
- 肉体的疾患:痛み、頭痛、てんかん、糖尿病など
- 職場でのストレス
では早速この分析の大まかな結果を見ていきましょう。
- 全体で見ると、ACTは比較グループよりも小程度の改善効果が見られた(効果量g = 0.42)
- 普段通りの治療を実施する場合と比較すると、中くらいの効果が見られた(効果量g = 0.55)
- 認知行動療法と比較すると、ほとんど有意な効果は見られなくなった(効果量g = 0.16)
ここから言えるのは、どうやらACTでフィジカル&メンタルの問題を改善する効果が確認できた!ということ。しかし他の認知行動療法と比べると効果の差はほとんどありませんでした。
この点は捉え方次第で、「一般的な認知行動療法と大差ないんだな」とも言えますし、「認知行動療法と同じくらい効果があるんだ!」とも取れます。個人的には後者の意見です。
そして更に詳しく見ていくと、こんなことも分かりました。
こんなケースでACTの効果が高かった
- 対象者に女性が多いとき:原因は分かっていない
- セラピストの数が少ないとき:1、2人のみの時に効果が高かった。恐らくその中にACTの主導者の立場にいるセラピストが居たため、若干都合がいい方に効果がインフレ(高騰)したものと思われる
- 研究の質が低いとき:言うまでもなく、質が低い研究では基本的に効果は高く出やすい
○○より△△の方が効果が高かった
- 肉体的疾患や職場でのストレスを指標にした研究は、精神疾患を指標にした研究より効果が高かった
- ヨーロッパで行われた研究は、アメリカで行われたものより効果が高かった
症状別に見ると..
- 効果が見込める:慢性痛、耳鳴り
- 効果があるかも:うつ病、精神症状、不安症、強迫性障害、薬物依存症、職場でのストレス
何故か女性が多いとACTの効果が高く出たり、症状としては精神疾患よりも痛みなどの肉体的な疾患や職場でのストレスに効果的だったみたい。
他にも症状別に効果がありそうなものも出ていましたが、この辺りはまだ分かっていないことが多いので、参考程度に留めておくと良さそうです。
注意点・まとめ
また今回の研究にも注意点があって、
- 出版バイアスの恐れがある:都合の良いデータばかり集まって効果がインフレ(高騰)している可能性が高く、実際の効果はもう少し小さいと想定される(効果量g = 0.42 → 0.28)
- 日本で行われた研究はない:北アメリカからヨーロッパ諸国、オセアニアまで色々な国で研究が行われているが、日本の研究はない
- 検定力に問題がある:83%の研究で検定力に関する情報がなくて、検定力に基づいてサンプル数を決定した研究は10%しかなかった(ほとんどの研究が統計としてのパワーを発揮するのに十分なサンプル数を検出する手順を踏んでいない)
この辺りは大事なポイントだと思います。バイアスを調整すると効果もかなり小さくなりますが、今回のメタ分析にはACTと認知行動療法を比較した研究が割かし多めに含まれたので無理もないかと。
最後に注意点も踏まえて今回の内容をまとめると、
- ACTはフィジカル&メンタルの問題全般にそこそこの効果がありそう
- その効果は認知行動療法に引けをとらないレベルかもしれない
- ただ具体的にどんな症例に効いてどのくらいの効果があるのか?細かい部分は分かっていない
こんな感じになりましょう。研究自体は結構出てきているものの、まだ具体的にどんな症状にどのくらい効くのか?までは分かっていないし、統計手法にも課題が残る印象です。
赤羽(Akabane)
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#1 Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (1999). Acceptance and commitment therapy: An experiential approach to behavior change. New York, NY, US: Guilford Press.
#2 Lars-Goran € Ost. The efficacy of Acceptance and Commitment Therapy: An updated systematic review and meta-analysis. Behaviour Research and Therapy, Volume 61, October 2014, Pages 105-121.