本当に効果があるのは?科学的根拠レベル別「エルゴジェニックサプリ10選」

本当に効果があるのは?エビデンスレベル別に見た運動パフォーマンスを高める「エルゴジェニックサプリ」はこれだ!

赤羽(Akabane)

今回は「アスリートの運動パフォーマンスを高めるエルゴジェニックサプリ」についてのお話です。

本当に効果があるのは?エビデンスレベル別に見た運動パフォーマンスを高める「エルゴジェニックサプリ10選」

エルゴジェニックとは、運動能力を高める補助的な役割を持つ栄養や成分のことで、有名どころだとカフェインなんかがそうです。

ではこうしたサプリには現時点でどのくらい根拠があるんでしょう?科学的なエビデンスと一緒に信頼性が高い順に見ていきましょう。

エビデンスレベル別!パフォーマンスアップ効果が見込めるエルゴジェニックサプリ

この問題について参考になるのが、2018年に西オーストラリア大学が発表したレビュー研究(#1)で、人気のエルゴジェニックサプリをエビデンス別で3つのグループに分けてくれています。

グループは大きく、①効果が確立されている②効果が曖昧である③まだまだ研究途上である、に分けられます。まずは①から見ていきましょう。

効果が確立されているエルゴジェニック

カフェイン

冒頭でも出てきた、コーヒーやお茶などに含まれる刺激物です。

カフェインのパフォーマンス向上効果についてはダントツの実証研究数を誇っていて、2019年にはアンブレラレビュー(#2)も行われました。この結果分かったことは、

結果
  • カフェインは筋力、筋持久力、無酸素運動のパワー、有酸素持久力を高める効果がある
  • 無酸素より有酸素運動のパフォーマンスアップ効果のほうが高いかも
  • サプリの方が実証研究は多いが、コーヒーでも同様の効果が見込める

こういった知見でした。つまりカフェインでパフォーマンスアップ効果が見込めるのは、どちらかというと筋トレや短距離走よりランニングなどの有酸素運動で、摂取源はサプリでもコーヒーでも効果は見込めるということですね。

ただ遺伝などで効き目が弱かったり、体質に合わずに動悸や神経性不安を感じたりすることもあるので、こればかりは一度試してみてから判断する他なさそうです。


クレアチン

クレアチンは幾つかのアミノ酸が合わさってできた非たんぱく質窒素化合物で、エネルギー産生の回路の一つ「ATP-クレアチンリン酸系」でエネルギーの材料になる物質です。

こちらもカフェインに次いで実証研究が豊富で、2003年にメタ分析(#3)が出ています。全体的に筋肉量を増やしたり、小休憩をはさんで繰り返し行う筋トレやスプリントなどへの効果を報告する研究が多数あって、この辺りのパフォーマンスを高めてくれる可能性が高いです。


硝酸塩

硝酸塩は主に根菜や葉物野菜に豊富に含まれる物質で、体内で「一酸化窒素」に変換されます。

で一酸化窒素には、血管を拡張して酸素や栄養を全身に行き渡らせる効果や、筋肉の力を発揮するのに消費するエネルギーコストを減らしてくれる効果(#4)が見込まれます。

2017年にはメタ分析(#5)も出ていて、硝酸塩の摂取でどうやら持久力運動のパフォーマンスアップ効果があるようです。ちなみに実験で使われた硝酸塩の76%は「ビートルートジュース」だったみたい。

現時点で詳しい効果の違いは分かっていませんが、食品から摂るなら、ほうれん草やビートルート、セロリ、カブ、大根辺りがメジャーですね。


β-アラニン

アミノ酸の一種で、人体を構成する20種類のアミノ酸には含まれないタイプ。鶏肉やカツオなどに豊富で、ヒスチジンと一緒に「カルノシン」を構成する成分でもあります。

2017年にはメタ分析(#6)も出ていて、主に筋持久力を高めたり、体内のカルノシン貯蓄を増やして体の回復を早める効果が見込まれています。

ただ、既にトレーニング熟練者の方は初心者と比べて効果が実感しにくいかも!といった報告(#7)もあります。これは、熟練者だと元々筋疲労から立ち直る能力が高いから、カルノシンの筋疲労抑制効果が薄まってしまうためだと考えられています。


重炭酸ナトリウム(重曹)

お掃除の世界でかなり重宝されるあの「重曹」のことです。実は運動パフォーマンスを高める!としてスポーツ界隈でもジワジワきている物質なんですね。

具体的には、血液のpH値(酸性・アルカリ性)を整える役割があって、激しい運動で体内が酸性に傾くのを抑えてくれるといった経路で恩恵をもたらしてくれてるのかも..みたいに考えられています。

2012年にもメタ分析(#8)が出ていて、特に趣味程度で体を動かす方でスプリントなど短時間のトレーニングでパフォーマンスを高めると報告されています。

ただし、副作用として稀に「消化器官の不調」が起こることも分かっていて、対策としては、少量の炭水化物リッチな食事と一緒に摂ると良い!(#9)とのことです。


効果が曖昧であるエルゴジェニック

クエン酸ナトリウム

クエン酸ナトリウムは、重曹と同じく、血液のpH値を高める(アルカリ性に傾ける)ことで運動パフォーマンスアップ効果をもたらします。

2011年にはメタ分析(#10)が出ていますが、どうやらクエン酸ナトリウムの効果はまだパッとしない様子

またこちらも、多量摂取(0.7–0.9 g/体重kg)で「消化器官の不調」が起こるかもしれない(#11)ので、摂るなら0.5g/体重kgくらいで試してみるのがよろしいかと思います。


リン酸塩

リン酸塩はミネラル分の「リン」と「酸素」が組み合わさった物質です。

割と昔から、リン酸塩でエネルギー(ATP)やクレアチンリン酸の再合成率が上がるかも!という説があって、これはエネルギーの再合成に「リン酸」が深く関わっているからです。

他にも、赤血球中の2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)濃度を高めることも分かっていて、これによって血中の酸素を取り込めるキャパが上がる!(#12)という経路も関係していそうですね。

ただ実際の研究では効果がハッキリしていなくて、短時間のスプリントやサイクリングのパフォーマンスを上げる傾向が見られているものの、まだ結論は出せない状況かと。

こちらも、副作用として稀に「消化器官の不調」が起こるかもしれないので、対策として少量の炭水化物リッチな食事と一緒に摂りましょう。


カルニチン

カルニチンはアミノ酸の一種で、リジンとメチオニンから成るアミノ酸でありビタミン様物質です。体内ではほとんどが骨格筋に存在していて、長鎖脂肪酸がミトコンドリアでエネルギーに変換されるのに欠かせない物質なんですね。

ただここ数十年の実証研究では、カルニチンサプリによるパフォーマンスアップ効果はあまりパッとしないものが多い印象です。

考えられるのは、一日4g程度までのカルニチンサプリを数週間、といった主流の摂り方では筋肉中のカルニチンレベルが大して上がらないから、という理由です。

ちなみに筋肉中のカルニチンレベルを引き上げるのに効果的な方法としては、糖質と一緒に摂るのがお勧めです。これは糖質でインスリンの働きを促してカルニチンを筋肉中により効率的に運んでもらおう、という原理(#13)を利用したテクニックですね。


まだまだ研究途上であるエルゴジェニック

N-アセチルシステイン(NAC)

アミノ酸が結合してできる体内の強力な抗酸化物質「グルタチオン」の前駆体(進化前の形態)です。

運動による酸化ストレスを抑えて回復を早める、という経路(#14)で激しい競技スケジュールの中では役に立つかもしれないですね。


ポリフェノール類

ポリフェノールは植物が進化の過程で身に付けた成分の総称で、よく聞くカテキン類やアントシアニン、イソフラボンなんかもこの一種です。

でポリフェノールは総じて強力な抗酸化作用があって、体の酸化ストレスや炎症を抑えてくれます。この点ではパフォーマンスアップとは繋がりにくいんですが、一部のサブクラス(フラボノイド等)では、運動によるシグナル回路の活性化を刺激する効果が報告(#15)されているものもあるようです。

注意点・まとめ

ではまとめとして、各エビデンス別のエルゴジェニックサプリ一覧をもう一度おさらいしておきましょう。

効果が確立されているエルゴジェニック
  • カフェイン
  • クレアチン
  • 硝酸塩
  • β-アラニン
  • 重炭酸ナトリウム(重曹)
効果が曖昧であるエルゴジェニック
  • クエン酸ナトリウム
  • リン酸塩
  • カルニチン
まだまだ研究途上であるエルゴジェニック
  • N-アセチルシステイン(NAC)
  • ポリフェノール類

当然、試すならエビデンスが豊富なサプリからがお勧めです。ただ、色々な研究を見ていてもカフェインは特に個人差が大きいですね。こればっかりは遺伝も大いに関係してるんで、仕方ないのですが。

では最後に研究チームの言葉で締めくくりましょう。

パフォーマンスアップのサプリメントは、いきなり本番環境に落とし込む前にトレーニング段階で徹底的に試験しておくべきだ。何故なら、効果がないという結果からむしろ悪影響だったという結果まで、あらゆるシナリオが想定されるし、こうした結果はパフォーマンス向上のメリットを上回るかもしれないからだ。[筆者訳](#1)

何か競技に役立てたい!という方は、エルゴジェニックサプリもトレーニングや準備段階から試しておくのがよろしいかと思います。

赤羽(Akabane)

個人的には、トレーニング前のカフェインや後のクレアチンなどは試したことがありますが、カフェインの効果は特に実感しましたね。今度気が向いたらβ-アラニン辺りも試してみようかな?と思います。今回紹介したサプリに関して「もっと詳しく!」という方は以下も併せてご覧いただくと良さそうです。

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参考文献&引用

#1 Peter Peeling, Martyn J. Binnie, Paul S.R. Goods. Evidence-Based Supplements for the Enhancement of Athletic Performance. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2018 Mar 1;28(2):178-187.

#2 Grgic J, Grgic I, Pickering C, et al. Wake up and smell the coffee: caffeine supplementation and exercise performance—an umbrella review of 21 published meta-analyses. Br J Sports Med Published Online First: 29 March 2019. doi: 10.1136/bjsports-2018-100278.

#3 Branch JD. Effect of creatine supplementation on body composition and performance: a meta-analysis. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2003 Jun;13(2):198-226.

#4 Andrew M. Jones. Dietary Nitrate Supplementation and Exercise Performance. May 2014, Volume 44, Supplement 1, pp 35–45.

#5 McMahon NF, Leveritt MD, Pavey TG. The Effect of Dietary Nitrate Supplementation on Endurance Exercise Performance in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2017 Apr;47(4):735-756.

#6 Saunders B, Elliott-Sale K, Artioli GG, et al. β-alanine supplementation to improve exercise capacity and performance: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine 2017;51:658-669.

#7 Phillip Bellinger. β-Alanine Supplementation for Athletic Performance: An Update. Journal of Strength and Conditioning Research. 28(6):1751–1770, JUNE 2014.

#8 Peart DJ, Siegler JC, Vince RV. Practical recommendations for coaches and athletes: a meta-analysis of sodium bicarbonate use for athletic performance. J Strength Cond Res. 2012 Jul;26(7):1975-83.

#9 Carr A.J. Slater G.J. GoreC.J. Dawson B. & Burke L.M. (2011). Effect of sodium bicarbonate on [HCO3−], pH, and gastrointestinal symptoms. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 21(3) 189–194.

#10 Carr A.J.Hopkins W.G. & Gore C.J. (2011). Effects of acute alkalosis and acidosis on performance: A meta-analysis. Sports Medicine 41(10) 801–814.

#11 Urwin C.S.Dwyer D.B. & Carr A.J. (2016). Induced alkalosis and gastrointestinal symptoms after sodium citrate ingestion: A dose-response investigation. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 26(6) 542–548.

#12 Fukuda, David H ; Smith, Abbie E ; Kendall, Kristina L ; Stout, Jeffrey R. Phosphate Supplementation: An Update. Strength and Conditioning Journal: October 2010 – Volume 32 – Issue 5 – p 53-56.

#13 Stephens F.B.Evans C.E.Constantin-Teodosiu D. & GreenhaffP.L. (2007). Carbohydrate ingestion augments L-carnitine retention in humans. Journal of Applied Physiology (1985) 102(3) 1065–1070.

#14 Braakhuis A.J. Hopkins W.G. (2015). Impact of dietary antioxidants on sport performance: A review. Sports Medicine 45(7) 939–955.

#15 Somerville V. Bringans C. and Braakhuis A.(2017). Polyphenols and performance: A systematic review and meta-analysis. Sports Medicine 47(8) 1589–1599.