赤羽(Akabane)
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プロバイオティクスにはメンタル改善効果がある!はどこまで本当なのか?:うつ病編
巷ではプロバイオティクスでメンタルが善くなる!みたいな話が出てきているので、ここからは「うつ病」に絞って現段階での信頼できそうなデータを見ていきましょう。
2018年、あらゆる人でのうつ症状改善効果を調べたプロバイオティクス研究のメタ分析
まずは2018年にKK婦人子供病院が発表したメタ分析(#1)。これは10件の臨床試験から1349名の健康な人とうつ症状を抱えた患者を対象に、プロバイオティクスのうつ症状改善効果を調べたものです。
で結論から言ってしまうと、プロバイオティクスはプラセボ(偽薬)の比較グループと比べても全体的にうつ症状改善効果が見られなかった、という拍子抜けな結果になっていました。
ただそれでも、軽~中度のうつ症状を抱える人のみでまとめてみると有意な効果が出ていたり、元々症状を抱えている人には効果があるのかもしれない、とのことでした。
この研究結果をまとめると、
- プロバイオティクスはメンタルに問題がない人にはうつ症状の改善は見込めない
- うつ症状を抱える人では効果があるかもしれない
- ただ分かっていないことが多いうえに、研究ごとに結果のバラつきが激しいので一定の効果は得られないかもしれない
こんな感じでしょうか。如何せん大半の研究が「健康な人」を対象にしていたんで、そうでない人へのうつ症状改善についてはデータが少ないぞ!というのが率直な感想です。
2019年、うつ病診断を受けた人のみ対象のプロバイオティクス研究を集めたメタ分析
こう来ると次は、「じゃあうつ病の診断を受けた人だけを対象にしたメタ分析ってないの?」という疑問が湧いてくるわけです。
そこで調べてみると、2019年にキングスカレッジロンドンが発表したメタ分析(#2)がありました。
これは3件のRCTから229名(平均36歳、女性7.5割)のうつ病患者を対象に、プロバイオティクスは比較グループと比べてうつ症状改善効果が見込めるか?を調べてくれたもの。
ちなみに、このメタ分析は対象研究の条件が厳しくて、①正式にうつ病診断を受けた患者か②科学的にお墨が付いた診断ツールで診た人しか含まれていません。「3件って少なっ!」と思いますが、現状この条件をクリアしているのがこれだけだったのだとか..。
でこうした実験を3件とも8週間の期間で見ていったところ、こんな結果になりました。
- 全体的に、プロバイオティクスとプラセボ(偽薬)グループでは実験後のうつ症状改善効果に差はなかった
- 結果のばらつきは激しかった
どうやら全体で見ると、比較グループと比べてプロバイオティクスでは特に有意なうつ症状改善が見られなかった様子。
ただ3件中2件がプロバイオティクスと同時に抗うつ剤治療を行っていて、残りの1件を除くと有意な結果が得られたようです。
研究 | 抗うつ剤使用有無 | うつ病の診断ツール |
Akkasheh et al(2016) | 有 | Beck Depression Inventory (BDI) |
Romijn et al(2017) | 無 | Montgomery-Asberg Depression Scale (MADRS) |
Kazemi et al(2018) | 有 | Beck Depression Inventory (BDI) |
条件にヒットした件数を見ても、いかにこのテーマのエビデンスが少ないかが分かりますね。更にこれら3件はイランとニュージーランドのみのデータなので、一般化できる内容なのか?も怪しいです。
この研究結果をまとめると、
- プロバイオティクスの効果をうつ病診断を受けた患者で検証した研究は少なすぎる
- 一応うつ症状の改善はみられるものの、抗うつ剤とセットで服用した場合に限定されている
- 現状ではプロバイオティクスのうつ症状改善効果はパッとしないものだと言わざるを得ない
こんな感じでしょうか。残念ですが、プロバイオティクスだけでうつ病に立ち向かうのは少々厳しいみたい。
注意点・まとめ
ここまでザックリ見てきましたが、残念ながらプロバイオティクスはうつ病改善に関しては芳しい結果が得られませんでした。
そもそも検証している研究が少ないうえに、正式なうつ病診断を受けた人を狙ったものはもっと少ない、と。現段階で効果に線引きをするのは難しいかと…。
とはいえ、腸内細菌など腸の環境と脳が密接に繋がっていて、メンタルにも影響する!(#3)という話がある以上、腸内環境を整えるプロバイオティクスがメンタルに効く!という主張もあり得る話ではあります。
ただ、具体的にどんなメンタルの問題に対してどのくらい効果があったのか?という臨床研究データが得られないと、今回のうつ病への効果のように「理論上可能」なだけの主張になってしまいます。
赤羽(Akabane)
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参考文献&引用
#1 Ng QX, Peters C, Ho CYX, Lim DY, Yeo WS. A meta-analysis of the use of probiotics to alleviate depressive symptoms. J Affect Disord. 2018 Mar 1;228:13-19.
#2 Nikolova V, Zaidi SY, Young AH, Cleare AJ, Stone JM. Gut feeling: randomized controlled trials of probiotics for the treatment of clinical depression: Systematic review and meta-analysis. Ther Adv Psychopharmacol. 2019 June 26;9:2045125319859963.
#3 Clair R. Martin, Vadim Osadchiy, Amir Kalani, and Emeran A. Mayer. The Brain-Gut-Microbiome Axis. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2018; 6(2): 133–148.